夏の電気代が跳ね上がる?中東の緊張が招く日本の電気代高騰

作成日
夏の電気代が跳ね上がる?中東の緊張が招く日本の電気代高騰

遠く離れた中東で連日報道される緊迫した映像。多くの方は「大変な事態が起きている」と心を痛めつつも、どこか自分の日常生活とは切り離された出来事として捉えているかもしれません。

しかし、中東情勢の緊迫化は、私たちが毎月支払う電気代にも直結しています。中東紛争が日本の電気料金にどのようにかかわっているのか、そして電気料金は今後どうなるのかについて調べてみました。

遠い海の緊張が、なぜ日本の家計を揺るがすのか

2026年2月末に始まった、アメリカ・イスラエルとイランの間の激しい対立。ニュースでは地政学的なリスクとして語られることが多いですが、私たちの生活を支えるインフラの視点から見ても大きな危機であることは明白です。というのも日本のエネルギー供給網は限られたルートに依存して成り立っているためです。

その最大の急所となるのが、中東の要衝であるホルムズ海峡です。現在、この海域は極めて危険であり、事実上の封鎖状態となっています。日本郵船や商船三井といった国内の主要な海運会社は、すでに同海峡を通る船舶の航行を停止する決断を下しました。

日本のエネルギー輸入において、この海峡がいかに重要な役割を担っているのか。その数字を見ると、私たちが抱えるリスクの大きさが浮き彫りになります。

原油についてはおよそ90%がホルムズ海峡を通って輸入されてくるため、海峡の封鎖が原油価格に及ぼす影響が大きいことは当然ですし、すでに原油価格の高騰についてはニュースで目にした方も少なくないでしょう。

日本の主要エネルギー資源におけるホルムズ海峡依存度と備蓄状況
エネルギー資源 ホルムズ海峡の通過割合 国内備蓄期間の目安
原油 約90% 約200日以上(国家・民間備蓄合計)
LNG(液化天然ガス) 約10〜20% 約2〜3週間程度

ここで日本の発電について簡単におさらいしましょう。

日本の電力のおよそ7割は火力発電で作られています。火力発電の主な燃料はLNG(液化天然ガス)、石炭、石油(原油)であり、そのうちLNGがもっとも多く利用されています。火力発電中に占めるLNGの割合はおよそ50%、そして石油の割合はおよそ10%です。

2024年度の日本の電源構成・内訳
電源 総発電量に占める割合 火力発電の中の内訳
火力 67.5%
ーLNG(液化天然ガス) 31.8% 47.1%
ー石炭 28.6% 42.3%
ー石油 7.2% 10.6%

・参照:経済産業省「令和6年度(2024年度)エネルギー需給実績(速報)」

火力発電に石油(原油)が使われている割合はさほど大きくありません。
そして、海峡を通過するLNGの割合は原油に比べてぐっと低いため、一見すると電気代への影響は限定的にも見えます。

では、なぜ今回の紛争が電気代の高騰につながるのでしょうか?

1. LNGの価格が「原油価格」に連動している

日本が輸入するLNGは、原油価格に連動して価格を決定する契約(原油価格連動型)が多くを占めています。

そのため、原油価格が高い状態が続くとLNGの仕入れ値も自動的に値上がりしてしまします。

2. エネルギー全体の需給バランスと代替需要

原油価格の高騰は「エネルギー全般の不足や不安」を反映しています。

原油が高いと、世界中で「石油の代わりに天然ガスや石炭を使おう」という動き(代替需要)が強まるため、天然ガスや石炭の市場価格もつられて押し上げられます。結果として、日本の火力発電のおよそ9割を占める「LNG」と「石炭」の両方のコストが上昇してしまいます。

3. 日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格上昇

日本国内の電力会社は、足りない分の電気を「JEPX」という市場で売買しています。

市場での電気の価格は、その時もっともコストが高い発電所(主に古い石油火力や高価なスポットLNG火力)の発電コストに引きずられる性質があります。

原油高で「いざという時に動かす石油火力」のコストが上がると、市場全体の電気の価格が底上げされ、それが私たちの電気代(特に市場連動型の電気料金プラン)に反映されます。

忘れた頃にやってくる「時間差」の衝撃

とはいえ、2月末に勃発した紛争の影響によって、我々消費者の今月の電気代が今日明日で急に値上がりするケースは稀です。
というのも、多くの方が契約している電気料金プランは、発電に必要な燃料価格の変動を燃料費調整制度によって電気代に反映させているからです。

この制度は、燃料の輸入価格の変動を電気料金に自動的に反映させるためのものですが、価格の変動がすぐに請求書に記載されるわけではありません。輸入価格の変動から実際の電気代に反映されるまでには、およそ3ヶ月から5ヶ月のタイムラグが生じます。つまり、現在起きている中東の混乱による原油やLNGの高騰は、すぐには目に見えないのです。

市場ではすでに原油価格が1バレル90ドルを突破し、最悪のシナリオとして150ドルに達する懸念すら囁かれています。今私たちが支払っている電気代は、まだ比較的平穏だった数ヶ月前の化石燃料価格に基づいたものに過ぎません。

夏場のピーク時に直撃するリスク

このタイムラグを計算すると、現在高騰している燃料価格が電気代に反映され始めるのは、ちょうどエアコンの使用頻度が高まる夏以降となります。電力の消費量がピークに達する時期に単価の引き上げが重なるため、今のうちから省エネ性能の高い家電への買い替えや、契約プランの見直しなど、各家庭での自衛策を検討しておくことが推奨されます。

輸入国を追い詰める「もう一つの重圧」

さらに、私たちを悩ませる要素はエネルギーの純粋な価格高騰だけではありません。国際社会が不安定になると、投資家はリスクを避けるために安全資産とされる米ドルを買い求める傾向があります。いわゆる「有事のドル買い」です。

この動きは、為替市場において急激な円安を引き起こします。日本はエネルギー資源のほぼすべてを海外から輸入しており、その決済の大部分は米ドルで行われています。ただでさえ燃料の価格自体が上がっているところに、円の価値が下がるという現象が重なるため、輸入コストは掛け算のように膨れ上がっていきます。

日本の電気代を押し上げる要因を整理すると、以下のようになります。

  • 燃料費調整制度を通じた、数ヶ月後の自動的な価格転嫁
  • 海峡封鎖リスクに伴う、備蓄の少ないLNGスポット価格の急騰
  • 有事のドル買いによる円安進行と、それに伴う輸入コストの肥大化

私たちが今、見据えるべき現実とは

海の向こうの争いと、毎月届く電気代の請求書。一見すると関係のないこの二つは、グローバル化されたエネルギー市場を通じて密接に結びついています。現在の状況は、日本のエネルギー供給構造がどれほど脆い基盤の上に成り立っているかを、痛烈に突きつけています。

目先の数ヶ月をどう乗り切るかという家計のやりくりももちろん重要ですが、私たちが本当に議論すべきは、この脆弱な構造からの脱却です。海外の化石燃料に依存し続ける限り、私たちは常に地政学リスクという見えない人質を取られ続けることになります。これを一つの契機として、地域で生み出し地域で消費する分散型の再生可能エネルギーの拡充や、外部要因に振り回されない堅牢なエネルギーシステムへの転換について、社会全体で真剣に向き合う時が来ているのではないでしょうか。

 

 

最新のニュース