AI時代の「日米インフラ同盟」:ガス火力発電を軸とした巨額投資の期待と懸念

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AI時代の「日米インフラ同盟」:ガス火力発電を軸とした巨額投資の期待と懸念

2025年7月、石破政権下で合意に至った約86兆円(5,500億ドル)規模の対米投融資が、高市政権のもとで具体化に向けて進められています。赤沢経済産業相は本日10日の記者会見にて、11日から訪米し、ラトニック商務長官らと協議を行う考えを示しました。

対米投融資の第一弾として有力なのはデータセンター向けのガス火力発電、原油積み出しの深海港、人工ダイヤモンド生産工場の3事業。

この記事では一つ目のガス火力発電について少し掘り下げてみます。

データセンター向けのガス火力発電事業とは?

トランプ政権はAIを国家戦略の柱と位置づけ、データセンター開発を優先し、米国におけるデータセンターの規模は急速に拡大しています。ここで現在課題となっているのが肥大する建設コストと電力需要です。これを解消するために今回日本が参加するプロジェクトがガス火力発電事業です。

この事業はソフトバンクグループが中心となり、三菱重工業などの日本の重電メーカーの技術を投入して、米国のデータセンター敷地内や近接地に専用の発電所を建設する計画。事業総額は6兆〜7兆円程度となる見込みです。

国際協力銀行(JBIC)による資金拠出や日本の3メガバンクによる融資、日本貿易保険(NEXI)による保証など、官民の金融リソースを総動員して、AI産業の生命線である安定電源を確保することを目指しています。

日本にとってのメリットと潜在的な懸念

巨額投資の一環であるこのプロジェクトへの参加は、具体的に日本経済にどのような影響をもたらし得るのでしょうか?

メリット

  • 「トランプ関税」の回避:トランプ政権は当初、一律25%程度の高関税を示唆していましたが、この巨額投資を約束したことで、日本製品に対する関税の天井(キャップ)を15%に抑える合意を取り付けました。日本の自動車や製造業が壊滅的な打撃を受けるリスクを回避しています。
  • 「受注獲得」による国内産業の活性化:三菱重工業や三菱電機、フジクラといった日本の重電・電子部品メーカーが、米国でのインフラ建設を通じて数兆円規模の新規案件を受注し、それが国内工場の稼働や研究開発投資へと還元されます。

懸念事項

  • 利益配分とリスク:利益の90%が米国に配分されるという極端な配分比率に対し、国内では「不平等条約ではないか」との批判もあります。また、事業が失敗した際の損失リスクは日本の金融機関が負う可能性があり、慎重な管理が求められます。
  • 貿易不均衡への限定的な効果:インフラ投資が主眼であるため、トランプ氏が重視する米国の対日貿易赤字の圧縮にどこまで寄与するかは不透明です。

環境負荷と電力コストをめぐる反対の声

米国におけるガス火力発電事業の実施は日本にとってトランプ関税回避、国内産業の活性化といった恩恵がある一方、現地では環境面や社会面の問題から反発を招いている事業でもあります。

  • 気候変動への加担:グローバル・エネルギー・モニター(GEM)は、AI需要に応えるためのガス火力発電の急増が、深刻な地球温暖化を引き起こすと警告しています。専門家たちは、脱炭素化が急務とされる中で数十年にわたる排出を「固定化」することに強い懸念を示しています。
  • 米国内の草の根の反発:データセンターの乱立は、温室効果ガスの増加だけでなく、地域住民の「電気代の高騰」や「水資源の独占」の原因にもなっています。テキサス州やペンシルベニア州などでは、地域経済への貢献を期待する声がある一方で、生活環境の悪化を懸念する住民による反対運動も起きています。

私たちは何に投資するのか?

86兆円の対米投融資の第一弾となるガス火力発電事業は、AI覇権をめぐる日米の戦略的な「共通の利益」に基づいていますが、その実態は「環境への代償」と「巨額の財務リスク」という危ういバランスの上に成り立っていることも忘れてはいけません。
日米両政府には、経済安全保障やAI覇権の維持という戦略的目的だけでなく、環境への配慮や国民負担の透明性について、より明確な説明責任が問われています。

このガス火力発電事業が、単なる「トランプ関税回避の入場料」に終わるのか、それとも日本が次世代AIインフラの覇権を握るための「攻めの投資」となるのか。今後予定されている日米首脳会談などにおける具体的な進捗に要注目です。

 

 

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