イランから輸入ゼロでも電気代は上がる?中東情勢がもたらす3つの影響

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イランから輸入ゼロでも電気代は上がる?中東情勢がもたらす3つの影響

中東情勢の緊迫化が報じられる中、日本の夏の電気代への影響を心配する声が出ています。日本は現在、イランからの原油や天然ガスの輸入を行っておらず、実際に2019年以降はイラン原油の輸入実績はゼロです。

しかし、直接の輸入がなくとも、日本の電気料金に多大な影響が及ぶのは避けられません。それは、日本のエネルギー調達が「ホルムズ海峡」という針の目のような輸送路と、連動する世界市場に依存しているからです。本記事では、その背景にある3つの理由を詳しく解説します。


かつてはイランから輸入も、2019年に日本が輸入を停止した背景

日本はかつて主要な原油調達先としてイランを利用していましたが、2019年以降は輸入を完全に停止しています。その最大の理由は、アメリカによる経済制裁への対応です。

2018年、当時のトランプ政権がイラン核合意(JCPOA)からの一方的な離脱を宣言し、イラン産原油の禁輸を含む厳しい制裁を再発動しました。日本は国際金融システムからの排除リスクや安全保障上の判断から、段階的に輸入を削減し、最終的にゼロへと踏み切りました。

イラン核合意(JCPOA)とは?

2015年、イランのロウハニ政権が米英独仏中ロの6カ国に約束した核関連活動に関する制約の取り決めをさす。国際原子力機関(IAEA)の規定より厳しい内容で、濃縮ウランの貯蔵量を300キロ以下、濃縮度は3.67%に制限し、遠心分離機の稼働数の削減なども受け入れた。

米欧は義務履行の見返りとしてイランへの経済制裁を解除した。しかし、イランを敵対視するトランプ米大統領が18年5月に核合意からの離脱を一方的に表明しイラン産原油の全面禁輸など制裁を再開する大統領令に署名した。

引用元ː日経オンライン > 核合意


理由① 原油・LNGの「世界的な争奪戦」が価格を押し上げる

日本がエネルギーを世界市場から調達している以上、イランからの直接輸入の有無は関係ありません。火力発電の主力燃料であるLNG(液化天然ガス)や原油はすべて国際価格で取引されているからです。

中東で軍事衝突や緊張が高まると、市場では供給不足への懸念から投機的な動きが加速し、エネルギー価格が世界的に急騰します。特に現在のイスラエル・イラン間の対立激化は、これまでの「代理戦争」の枠を超え、直接的な攻撃にまで発展しています。

たとえ日本が中東以外(オーストラリアや米国など)から燃料を調達しようとしても、世界中で代替燃料の奪い合いが起こるため、結果として日本が支払う輸入価格も跳ね上がります。これが「燃料費調整額」を通じて、数カ月後の私たちの電気代に反映される仕組みです。

理由② ホルムズ海峡の「物理的な封鎖リスク」と輸送コスト

次に深刻なのが、輸送ルートの脆弱性です。日本が輸入する原油の95%前後は中東に依存しており、そのほぼすべてがホルムズ海峡を通過します。

海峡の北側を領有するイランは、軍事的な対抗手段として海峡の封鎖や商船の拿捕(だほ)を示唆しています。たとえ完全な封鎖に至らなくても、周辺海域でのドローン攻撃や機雷のリスクが高まれば、以下のようなコスト増を招きます。

  • 船舶保険料の急騰: 危険海域を通る船舶の保険料が跳ね上がり、輸送費を押し上げます。
  • 航路の変更: 海峡を避けるための遠回りや、随伴護衛の必要性が生じます。

特に注意すべきは、海峡の南側に位置し、これまで「中立の仲介役」であったオマーンの領土付近でも衝突の影響が出ている点です。物理的な衝突が海峡全体に及べば、日本のエネルギー供給の命綱が事実上断たれるリスクすら孕んでいます。

ホルムズ海峡はどこ?
ホルムズ海峡はどこ? - ペルシア湾とオマーン湾の間にある海峡。ホルムズ海峡の北側は、イランの領域。南側はオマーンの領域となっている。

理由③ 夏の需要ピークと「資源安(円安)」の二重苦

3つ目の要因は、日本の季節的な需要と為替の影響です。

まず、日本の夏は冷房需要で電力消費が最大化します。電力会社は不足分を補うために、コストの高いスポット市場から燃料や電力を調達せざるを得なくなります。

さらに、中東情勢が悪化すると、リスク回避のために「有事のドル買い」が進むだけでなく、エネルギー自給率の低い日本円が売られやすくなります。燃料代は米ドル決済であるため、「燃料価格自体の高騰」と「円安による支払い増」のダブルパンチが日本の電力コストを直撃し、数カ月後の電気代を押し上げる可能性が高いのです。


まとめ:日本が受ける影響の全体像と日本の課題

イランからの輸入がゼロであっても、以下の構造によって日本の電気代は上昇します。

  • 市場の連動: 世界的な供給懸念により、調達先に関わらず燃料価格が高騰する。
  • 輸送の急所: 原油の9割以上、LNGの一定割合が通過するホルムズ海峡のリスクがコストに直結する。
  • 経済の脆弱性: 有事の円安が輸入コストをさらに膨らませ、夏の需要期と重なることで影響が最大化する。

今回の危機は、日本のエネルギー構造がいかに地政学リスクに弱いかを浮き彫りにしています。化石燃料への過度な依存を減らし、再生可能エネルギーの導入や、安全性が確認された原発の再稼働を含めた、エネルギー自給率向上への議論がこれまで以上に急務となっています。

 

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