簡単・詳しい - 都市ガス自由化に関する基礎知識

私たちの日常生活に欠かせないガスも2017年4月から自由化が始まっています。しかし、一口にガスと言っても、2017年4月にはじめて私たちがガス会社を選択できるようになったわけではありません。ガス自由化を理解するためには、供給されているガスの種類とこれまでのガス自由化への経緯を知る必要があります。はじめてでもガス自由化について理解しやすいように分かりやすく解説します。
目次:
ガス自由化とは?
- ガス会社の種類は3種類
- 都市ガス・簡易ガスの自由化は2017年4月~
ガス自由化について考える前に、日本のガス会社の種類を把握しておきましょう。 日本では3種類のガス会社が存在しています。都市ガス(一般ガス)、簡易ガス、LPガス(プロパンガス)の3種類です。そして、2017年4月から完全自由化がはじまったのは、この3種類のうち都市ガスと簡易ガスになります。
都市ガス(一般ガス)
主にメタンから作られたガスを販売する都市ガスの特徴は、敷設されたガス導管を通してガスを供給している点です。都市ガスでは2017年4月までサービス提供エリアでの独占供給が認められていました。
例えば東京ガスならば、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県、栃木県、群馬県を営業エリアとして、都市ガス自由化までは東京ガスだけがそのエリアにガスを供給、販売を行っていたわけです。
都市ガス会社は全国に約200社ありますが、多くの都市ガス会社は従業員数100名以下の小規模なガス会社です。
簡易ガス
簡易ガスは別名団地ガスと呼ばれることもあります。都市ガスはガス会社から各家庭まで敷設されたガス管を通してガスを供給しますが、それらのガス管が敷設されておらず、かつガスボンベを個々に設置することが難しい場合に簡易ガスが使用されています。つまり、団地のような集合住宅などの場合です。簡易ガスは70戸以上の団地やマンションなどにガス発生設備を設置し、ガスを供給しています。
LPガス(プロパンガス)
LPガス(液化石油ガス)をシリンダーで各需要家に供給しているのがLPガス(プロパンガス)販売事業者です。
LPガスは昭和30年代頃から普及し始めました。都市ガスは地下にめぐらされた導管を通して供給されますが、その導管の導入にはコストと時間がかかります。
一方、LPガスはそのような初期費用や大規模な工事が必要ないため、当時の郊外の急速な需要を満たすために多く使用されていきました。 そして1997年からは、LPガスの販売は認可制から登録制となったため新規参入が増えました。小売りのLPガス(プロパンガス)販売事業者はおよそ20,000社あります。
ガス自由化とは、都市ガス自由化のこと
これまで見たようにガス会社には3種類があり、2017年4月からのガス自由化では都市ガスと簡易ガスが自由化の対象となりました。
LPガスについてはもともと料金等の供給条件については経済産業大臣の認可を受ける義務が課されておらず、登録制となっていますので、すでに自由競争が行われていました。
また、簡易ガスに関してはガス販売量が限定的であり、都市ガスとは比較にならないほど小規模であることが分かります。
これらの点からガス自由化とは、主に都市ガスの自由化を指すことが分かります。
都市ガスの自由化は、2017年4月に初めて行われたわけではなく、これまでも段階的に実施されてきました。その歴史は1995年から大口顧客向けに始められました。
下の年表からも分かるように、その後段階的に市場が開放され2017年4月には一般家庭や商店も含め、全ての需要家に対して都市ガスの完全自由化が実現しました。
シェアの大部分を東京ガス・大阪ガス・東邦ガス・西部ガスの大手4社が占めていました。まさに都市ガス市場はこの大手4社の独占市場だったわけですが、2017年4月からは私たち需要家が都市ガス会社を選択できるように市場が完全自由化されたのです。
そして、この変化により私たち需要家は自分の住んでいる地域で都市ガスサービスを提供する会社を自由に選択できるようになりました。
また電力自由化では今後送配電網の自由化が2020年4月に行われるように、都市ガスでも2022年にガス導管の自由化が予定されています。これにより、ガス導管部門が法的にガス会社から分離され、より公平にガス導管を使用できる仕組みが作られます。
都市ガスの自由化は今後も引き続き進められていきますので、その動きに注目しておくことが大切です。
年月 | 自由化対象 | 自由化率 |
---|---|---|
1995年3月~ | 年間契約数量200万㎥以上の大規模工場など | 約44% |
1999年11月~ | 同100万㎥以上の大規模商店など | 約49% |
2004年4月~ | 同50㎥以上の中規模工場など | 約52% |
2007年4月~ | 同10㎥以上の小規模工場など | 約59% |
2017年4月~ | 全ての需要家(一般家庭・商店) | 100%完全自由化 |
都市ガス自由化で変わること
これまでも段階的に自由化が進められてきた都市ガスの自由化ですが、完全自由化されることによってこれまでとどんなことが変わるのでしょうか?
ガス会社を選択できる
都市ガス自由化前までは住んでいる地域ごとに供給ガス会社が決められており、ガス会社を選択することはできませんでした。
しかし、2017年4月の都市ガスの自由化により私たち需要家がガス会社を選択できるようになりました。
もちろんガスの切り替えを行わずにこれまでのガス会社から供給を受けるという選択肢もあります。
以下は関東エリアで選べる都市ガス会社の例です。
ガス会社 | 特徴 |
---|---|
![]() 公式サイト |
CDエナジーダイレクト
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電話で詳細を確認(0120-710-473) | |
![]() 公式サイト |
エルピオ都市ガス
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![]() 公式サイト |
東急ガス
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公式サイト |
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CDエナジーダイレクトのおすすめ度
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電話で詳細を確認 0120-710-473 | |
公式サイト | |
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エルピオ都市ガスのおすすめ度
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公式サイト | |
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東急ガス
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公式サイト | |
ガス機器の調査作業
都市ガス自由化に伴ってガス会社を切り替えた場合、ガスコンロやガス給湯器などのガス機器の調査や注意喚起などの業務は切り替え先の新たなガス会社が行うことになります。そのため、ガス機器に不具合が生じた場合には切り替え先のガス会社に連絡する必要があります。
都市ガス自由化で変わらないこと
都市ガスの自由化が始まってもこれまでと変わらない点も多くあります。 安心してガスを使い続けるために、自由化で変わらないこともチェックしましょう。
ガスの品質は変わらない
ガス会社を切り替えたとしても、供給されるガスの品質が変わるわけではありません。都市ガスはこれまで通り同じ敷設されたガス管を通って供給されるため、ガス会社切り替えによってガス管の工事などを行う必要もありません。
安定供給は保障されている
都市ガスの自由化によって不安定な経営の新規事業者が乱立し、安心してガスを使用できなくなるという事態を避けるために一般ガス導管事業者つまり、ガス管を所有しているガス会社からの最終保障供給という制度が設けられています。
これは、契約していたガス会社が突然倒産などに陥った場合でも、一般ガス導管事業者がガス供給を最終的の保証してくれる制度で、明日から急にガスが使用できなくなるというような事態を防ぐセーフティーネットの役割を果たしています。
ガス漏れなどの緊急事態連絡先
ガス会社を切り替えた場合、ガスコンロなどのガス機器についての連絡先は切り替え先のガス会社になりますが、ガス漏れやガス管の異常が疑われる場合の緊急連絡先は変わりません。
めったに起こることではありませんが、緊急事態に備えてガス会社を切り替えた場合でもガス管を所有している一般ガス導管事業者の連絡先をしっかりチェックしておきましょう。
素朴な疑問Q&A
都市ガス自由化に関してや、いざガス会社を切り替えようとする際に気になる素朴な疑問をまとめてみました。
思い込んでいるだけの意外な盲点もあるかもしれませんので、ガス会社を切り替える場合にもそうでない場合にも疑問はしっかり解決しておきましょう。
Q:ガス会社を切り替えるにはどのような手続きが必要?
A:これまで都市ガスを使用しており、別の都市ガス事業者に切り替える場合には、原則切り替え先の新たなガス会社のみへの連絡だけで切り替えることができます。
ただし、これまでLPガスを使用していた場合やオール電化からの切り替えの場合には、切り替え前のガス会社にも連絡が必要となります。
いずれにしても、まずは自宅や商店がこれまでどのようなガス契約を結んでいたのかを正確に把握しておくことが大切です。
契約内容はガスの検針票に書かれていますので、気になったらまず検針票を確認してみてください。
Q:電力自由化と都市ガス自由化はどう違うの?
A:市場規模、調達方法、流通手段などの点で異なる点があります。
自由化された時期も近いことから電力自由化と都市ガス自由化はよく比較の対象となります。同じエネルギー分野の自由化ですが、電力の自由化とガスの自由化を比較すると、その市場規模・調達方法・流通手段など、異なる条件に基づいた自由化であることがわかります。
電力市場に比べると都市ガスの市場規模は小さく、流通手段も都市ガスは大都市が中心となっているため、電力の自由化と比較すると都市ガスの自由化による影響は限定的といえそうです。
電力の自由化 | ガスの自由化 | |
---|---|---|
市場規模 | 約8兆円 | 約2.4兆円 |
調達方法 | 自社発電所の新設・卸売・FIT電力の購入・卸取引市場など多数 | 海外から輸入・国内の生産業者から卸売を受けるの2通りのみ |
流通手段 | 送電線網が全国網羅 | 大都市を中心にガス導管が点在 |
Q:ガス会社を切り替えると、ガス工事が必要?
A:都市ガスから別の都市ガス会社への切り替えの場合には、工事の必要はありません。
都市ガスはこれまで通り敷設されたガス管を通ってきますので、ガス管工事はもちろん、ガスメーターの交換作業なども必要ありません。
これまでLPガスを使用していた場合には別途工事が必要となりますので、注意が必要です。
Q:ガス会社を切り替えるとガスコンロなど買い換えないといけない?
A:都市ガスから別の都市ガス会社への切り替えの場合には、買い替えの必要もありません。
ガスはこれまでと同様の品質のものが供給されますので、ガスコンロなどガス機器の買い替えも必要ありません。
これまでLPガスを使用していた場合には、ガス機器の調整や取り換え作業が必要となることがあります。
Q:ガス会社切り替えの際には一時的にでもガスが止まる?
A:都市ガスから別の都市ガス会社への切り替えの場合には、ガス栓の開閉作業は必要ありませんので、ガスが一時的にでも止まることはありません。
ガス栓の開閉作業もありませんので、面倒な立ち会い作業で時間を取られることもなく手続きだけでスムーズに切り替えを行うことが可能です。
都市ガス自由化のメリット
- 自由競争によりガス料金が安くなる可能性がある
- 新しいサービスや販売方法が登場する
- ガス管の整備がさらに進む可能性も
電力自由化と同様に都市ガス自由化によっても事業者間での市場競争が生まれ、サービス向上やガス料金が安くなることが期待されています。
また、同じエネルギー供給を担う電力会社や石油関連会社も都市ガス市場に参入しており、電気とガスのセット割引などの新たな販売方法も登場しています。
たとえば、東京電力では東京ガス供給エリアにおいて東京ガスの提供する一般契約料金よりも約3%安くなるプランやケーブルテレビ事業者のJ:COMでは電気・ガス・インターネットをまとめて契約することでのセット割引などが用意されています。
電気とガスのセットという点では販売方法だけでなく、資源開発などの面でも自由化によって事業者間の提携が進んでいます。たとえば、中部電力と大阪ガスは、米国でのシェールガスの液化・輸出事業に共同で参画しており、その背景には調達価格の安い米国のシェールガスをLNGに加工して輸入できれば、国内で販売する電力とガスの料金低下につながるとの見込みがあります。
また、これまでなかなか進んで来なかったガス管の整備も自由化によって規制緩和の動きが出ています。実は都市ガスの導管が敷設されているのは全国のわずか5.7%と低く、しかも首都圏や京阪神などの大都市に集中している上、東京と名古屋など各都市間の導管は結ばれていない、というのが現状です。
これまでガス管が整備済みの地域では、ガス料金の値上がりを防ぐために二重導管が規制されてきました。 しかし、ガスの自由化に向けて経済産業省・資源エネルギー庁は二重導管規制を緩和する方針へ転向したため、都市ガス自由化によってガス供給のためのガス管設備がさらに進むことが期待されています。
日本のガス3種類ちなみに、日本の一般家庭で使用されているガスは3種類。需要家数が多い順に、ガス導管から送られる都市ガス、ボンベを自宅に取り付けるLP(プロパン)ガス、70戸以上の団地などにガス発生設備を設置する簡易ガスです。この内、2017年のガスの自由化は都市ガスの一般家庭向け小売が自由化されることを指しています。LP(プロパン)ガス、簡易ガスの小売はすでに全面自由化されており、都市ガスも大口の需要家向け小売は自由化済みです。
二重導管規制とは?現在、ガス導管事業は届出制となっており、だれでもガス管を自由に作れるわけではありません。もし、ガス管が制限なく作られてしまったら、既存のガス管を流れるガスが減少し、運用効率が悪くなります。そのためガス管を二重に作らせないために規制が設けられています。
都市ガス自由化のデメリット
- 地域格差が大きくなる可能性がある
- 料金体系やプランが複雑になる可能性がある
- ガス料金が不安定になる可能性がある
都市ガスを使用するためのガス配管設備は大都市を中心にしか敷設されておらず、都市ガス自由化が開始されても新規事業者の参入が限定的な地域も見られます。そうなると自由化後も特定のガス会社による独占市場が続くことになり、メリットはあまり感じられなくなってしまいます。
2013年度の資源エネルギー庁調べによれば、日本における全国の都市ガスの利用状況には地域差が大きく、特にガス料金は一番安い関東地方と北海道・中国・四国・九州・沖縄の差は最大3.7倍にもなっています。
多くの新規事業者が参入する都市部では都市ガスの料金が低下する一方で、競争が生まれない地方ではガス料金が上昇してしまうという地域格差が大きくなってしまう可能性もあるのです。
またすでに電力の小売りが完全自由化されただけでも、さまざまな新規事業者が参入し新たなプランが多く用意されるようになっていますが、これに都市ガスの自由化が加わることによりさらに選択は難しくなっているのも事実です。
電力事業者、ガス事業者、通信事業者など各社とも顧客の確保、新規獲得には熱心に取り組んでいますので、都市ガスの切り替えを考える際にも入念な比較検討が必要です。